月と砂漠の頃

塚口は、東西に延びる阪急神戸線を伊丹線が北に直交する、兵庫県の小さな街である。塚口発伊丹行の列車などは、そのあまりに湾曲した線路のために駅付近では時速10キロも出せない。異様なスピードで走るその車両は、踏切に立つ人々をしばしば陶酔させる。 20…

至る所で 心を集めよ 立っていよ

朝7時にアラームが鳴る。それを10分くらい聞いてやっと起きる。歯を磨きながらフライパンを温め、いくつもの卵を割る。パンをトースターへ。洗面所でべーして綺麗な歯をいーする。その歯で卵やパンを砕く。コーヒーを沸かして煙草を吸う。時計の針を眺めなが…

燃えるのが早い、歩くのが遅い

19歳の頃だったか、新宿東口の居酒屋で止めどなく泣いたことがある。何がトリガーだったのかは今もわからないが、撃鉄が落ちるようにそうなってしまった。そんな自分を連れ去ってくれたT君を、俺は誇りに思っている節がある。その頃のT君は歳が上だったからT…

ツーリングIKEAの魅力

バイクで行くIKEA。これが最高なのです。 IKEAというお店は皆さんもご存知かと思います。昨今の新都心開発では、必ずと言ってよいほど議題に挙がるのがこの店名。思考停止したシティコンサルが「街独自の発展が欲しい。まずこの更地にコストコとIKEAを置いて…

午前10時の日没

無職になって3ヶ月が経った。半年前、俺は給料の高い会社に新卒で入社して、初ボーナスを強奪して東京に帰った。今はそれを切り崩して生活をしているものだから、大阪での日々は破滅のための準備期間だったのかとニヤニヤしてしまう。今のところ働く気は無い…

フリッパーは今夜も

ビデオゲームをほとんどやったことがない。小学生の頃はそれのせいで交友に苦労したこともあったが、今は何とも思わない。というのは嘘で、アーケードゲーム黄金期に馴染めなかった劣等感は、やはり大きかった。ティーンを過ぎた現在でも、ゲームは人のプレ…

神様

駄菓子屋でラムネを買い、凸型のキャップでビー玉を突いた拍子に、手をすべらせて、瓶が地面を大きく跳ね、それが空中で綻ぶように割れて、虹が残り、霧散したので、神様になった気がした。

スカーレット

都内の喫茶店で働いていた頃、モノ覚えの悪い俺に良くしてくれた先輩がいた。Aさん。とても博識だが、怒りやすく、その対比が絶妙に人を惹きつける特殊な方だった。Aさんは極道の息子だったが、どうやら後を継ぐ気は無いらしく、学生の身で起業までしていた…

残るもの

もう何年も前のことだけど、火葬場で祖母の遺骨を箸でつまんだ時に母が「こんなに小さくなっちゃった」と言って、俺はポロポロと泣いた。これで全部なのかよ、と箸を持つ手が震えて止まなかった。

潮風

高校では帰宅部だった。入学式の日に友人から弓道部に誘われたが、指が痛そうだったから断った。学校が終わると家に帰って、散歩して眠る生活が2年半くらい続いた。 高3の秋に教習所へ通った。自転車通学や散歩はもうたくさんで、別の足が欲しいと思っていた…

御霊のように

10日ぶりに外へ出てみるとそう長くは歩けなかった。家でサツマイモのようにじっと過ごしていたから、体力が落ちぶれてしまったのだ。朝の散歩は中断して、昼過ぎに再び自転車で出掛けた。 京成線沿いで小規模な焚き火を3件ほど見かけた。浅草の蕎麦屋や日暮…

未明過ぎ

午前4時くらいだったか、眠れずにベランダにぽつんと立っていた。これからどうしようかと考えていた。たばこを少し吸った。「少したばこを吸っているんだわ」と思った。夜の青も半ばを過ぎて、世界中が真っ赤になった。

今が全てだった

会社を辞めた。 社宅を今月中に空け渡さなければならず、ここ数日は荷造りに忙殺されている。一週間前は東京で研修をしていた。そこで会社を辞めたから、東京の寮を一夜にして去った。翌日には尼崎へ戻って、今は社宅を片付けながら大阪に通勤している。明日…

尼崎、2ヶ月目

初めてのひとり暮らし、環境や所感など ・木は良いものだ新居のベランダには3メートル近い柿の木が植わっている。木陰の揺れにあわせて頭をくわくわさせて、わざと目に陽があたるようにしている。陽が目に入ると滲みて、泣いているようで燃えてしまいたいと…

幽霊たち

荒川区の思い出のひとつに、剣道帰りで汗ばんだ俺の手を引く祖母と見送った、三河島を発つ貨物列車がある。「見えることもあるよ」と言って、祖母は煙草屋でソーダ飴を買ってくれた。三河島の列車事故は、母によく聞かされていた。俺は事故現場直下のアパー…

明滅していく

一度だけハワイに行ったことがある。オアフ島西端のビーチにデッキチェアを置いて、砂を持って眠ったりしていた。夜、友人の泊まるホテルで散々ビールを飲んだあと、俺は自分の泊まるもっとずっとランクの低いホテルに戻るのが憂鬱だった。「遅いし送って行…

星を掴んだ手を離せない夢を見た

「俺はここで生まれた、流れてきたんだ」と地球から手を伸ばして、どこかも知らない星を掴んで、その手が離せなかった。目が覚めると手には丸まったティッシュが握られていた。「人はこんな夢も見るのか」と感心しながら、その星をゴミ箱に投げた。

京都の一部始終

八坂神社を左手に四条通りの交差点を横断していたらものすごい夕焼けに襲われた。

エイリアンズの思い出

エイリアンズの最初の思い出は、友人の部屋に行くと友人が興奮した様子で「おい月島、この曲すげぇんだ」と言って、静かに部屋のスピーカーが鳴った高校時代だ。その友人とはいろいろあって二度と会うことはなくなってしまったけど、この曲を聴く度に「どう…