燃えるのが早い、歩くのが遅い

 19歳の頃だったか、新宿東口の居酒屋で止めどなく泣いたことがある。何がトリガーだったのかは今もわからないが、撃鉄が落ちるようにそうなってしまった。そんな自分を連れ去ってくれたT君を、俺は誇りに思っている節がある。その頃のT君は歳が上だったからTさんで、でも留年したからT君になった。T君は泣きっ面の俺を尻目に煙草の自販機に立って、通りすがりの人に声をかけてラッキーストライクを奢ってもらっていた。歩くのが遅い俺の袖を引くように、T君は賑やかで寂しいバーに俺を案内してくれた。俺は無言ですんすんと鼻をすすり、T君は「そういうこともあるよ」と発電所のように煙草を吸った。俺は24歳になったが、T君には今も袖を引いてもらっている。そういうふうに地球は回り続けている。