午前10時の日没

 無職になって3ヶ月が経った。半年前、俺は給料の高い会社に新卒で入社して、初ボーナスを強奪して東京に帰った。今はそれを切り崩して生活をしているものだから、大阪での日々は破滅のための準備期間だったのかとニヤニヤしてしまう。今のところ働く気は無いので「破滅は避けるべし、労働は善しとせず」といった状況に、頭が痛くなる。今でも大阪の天気予報を気にかけている。
 無職になって得たものは、保険や年金への憎しみと、病気がちで増長する内向性と、腐るほどの時間だった。腐るほどの時間の大半はラリっている。好きでラリっているわけではなく、不眠による記憶障害と、投薬による意識障害が日々デッドッヒートしているのだ。その熱の中で俺は、寝袋に入ってスケボーをしたり、引き戸を押して号泣したり、包丁を持って「行くぞ」と言ったり、歯を5回磨いたり、無線機をいじって感電したり、黒人に喧嘩を売ったり、肉体の悪魔を朗読したり、足でジェンガをやったりしている。
 来るべき破滅のために、俺は死ぬまでダンスを続けるつもりだ。とびきり面白いのがいい。逆さメガネで脳を騙くらかして、天に昇るように落ち続けたい。眠れない夜を越え、ベランダの陽が燦々と綺麗だ。ベッドにくたばると時計の針は109分で「止まってしまえよ」とヘラヘラ笑う。日没が近いような気がして、曖昧な眠気を少しつついてみたら、意識はどこまでも赤く落ちていった。