御霊のように

 10日ぶりに外へ出てみるとそう長くは歩けなかった。家でサツマイモのようにじっと過ごしていたから、体力が落ちぶれてしまったのだ。朝の散歩は中断して、昼過ぎに再び自転車で出掛けた。
 京成線沿いで小規模な焚き火を3件ほど見かけた。浅草の蕎麦屋や日暮里の布屋も軒先で木を燃やしていた。7月13日東京の夕刻は、御霊を迎えるための目印を置く時間だった。この目印を迎え火と呼んで、都内各地では盆踊りが行われる。
 家に帰る頃にはもうくたくたで、自転車のペダルを踏むのさえ億劫だった。自宅付近のカーブミラーに自分が映った。車輪のダイナモ灯がヒト魂のようにフラフラ反射していたので、「帰ったよ」とそのミラーの前でブレーキをかけた。ペダルを漕ぐのをやめると鏡の向こうのダイナモ灯が光を失ったので、この御霊は宵の明りと共に消え去った。